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LPSの基礎知識

(7)肥満とLPS

<肥満とLPS>

LPSの経口摂取が肥満の原因になることはありません。OECD基準で行った、ラットを使ったLPSの90日間の継続経口摂取試験によると、1日に体重1kgあたり45mgまで与えても、対照動物と体重に違いはなく、また臓器内に異常がないことが確認されています(*1)。

2007年、「Metabolic endotoxemia initiates obesity and insulin resistance」という論文が発表されました(*2)。この論文を引用し、不用意に「LPSが肥満の原因になる」としている本もありますが、食品や環境や腸内に存在するLPSがそのまま肥満の原因になるかのような誤解を招くので、引用するのであれば、正しく丁寧に解説してほしいものです。この論文は、マウスに高脂肪食を与えると、血清中のLPS濃度がやや高くなること。またLPSを人為的に注射する(具体的には、LPSを継続的にポンプで送り出して注射する装置を皮内に埋め込んでおく)と、高脂肪食を食べたときと類似した体重増加傾向と炎症パターンがみられることを示した論文です。決して、食品や呼吸から自然摂取するLPSで肥満が起こるとした内容ではありません。この論文の結果は、2019年現在では、高脂肪食によるリーキーガット(「リーキーガットとLPS」参照)で説明がつきます。すなわち、高脂肪食を摂取する→腸内細菌バランスが崩れる→腸管バリア機能が破たんする→腸内の腸内細菌及びLPSが体内に移行する→体内で炎症が起こる、という現象です。本論文は、現在であれば、肥満の研究というよりは、リーキーガットの研究と言えるでしょう。

尚、2018年には、マウスに高脂肪食を与える実験系において、LPSの経口投与によって、動脈硬化やアミロイドβ蓄積抑制とともに、体重増加が抑制される論文が発表されています(*3, *4)。

以下、肥満に関する最近の知見について興味のある方はお読みください。

<肥満の定義>

世界保健機構(World Health Organization:WHO)によれば、過体重および肥満は、健康を損なう可能性のある異常または過剰な脂肪蓄積として定義されます(*5)。指標としては以下のとおりです。
・過体重:BMIが25以上
・肥満:BMIが30以上
※BMI(Body Mass Index)は、成人の過体重と肥満を分類するために一般的に使用される身長に対する体重の関係から計算する単純な指標です。 これは、キログラム単位の体重をメートル単位の身長の二乗(kg/m2)で割ったものとして定義されます。

<肥満の原因>

これもまたWHOによれば、肥満と過体重の根本的な原因は、摂取カロリーと消費カロリーの間のエネルギーバランスの不均衡です(*5)。 すなわちカロリーの過剰摂取と運動不足が原因になると言っています。

ただし、満腹感を促すホルモンや、代謝に係る因子が正常に動かないという遺伝的な要因でエネルギーバランスの不均衡が起こる場合もあります(*6)。また、最近の知見では、下記に述べるように、腸内細菌バランスが崩れることで肥満になりやすくなることがわかっています。

<肥満と腸内細菌>

これまでに肥満と腸内細菌の関係を示すいくつかの研究が報告されています。例えば、2013年には無菌のマウスの腸に、肥満とやせ形の双子の腸内細菌を移植すると、肥満の人の腸内細菌を移植したマウスは太り、痩せた人の腸内細菌を移植したマウスは痩せるという結果が報告されました(*7)。また、肥満の人と普通の人の腸内細菌バランスが異なることを示す研究も多数報告されています(*8)。増減する菌の種類については必ずしも結果の一致があるわけではなく、特定の細菌が良い悪いというよりも、腸内細菌の多様性が減じていることが肥満に関係する、と解釈されています。

腸内細菌がBMIを決定する?

では、なぜ腸内細菌が肥満と関係するのでしょうか。腸内細菌は、人間が分解できない食物繊維などを分解し、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸をつくります。この短鎖脂肪酸は、人間のエネルギー源になるだけではなく、下記のように肥満抑制に関与する種々の作用を持っています(*9)。

①交感神経を刺激して、体温上昇や酸素消費などのエネルギー消費を上昇させる
②脂肪組織では、脂肪細胞への脂肪の蓄積を抑える
③脂肪組織以外の組織では、脂質・糖代謝を促進する
④腸管内分泌細胞に、食欲を抑制につながるホルモンを分泌させる
従って、短鎖脂肪酸を作る腸内細菌の割合は、肥満になりやすいかどうかに関係します。

<肥満と炎症>

近年、肥満は炎症性疾患だと言われます。それは肥満になると脂肪組織で炎症が起きるからです。

カロリー過剰摂取によって脂肪細胞が肥大すると、脂肪細胞がマクロファージを呼び集める因子を分泌し始め、集まってきたマクロファージと脂肪細胞の両方が炎症性因子を出すことによって脂肪組織で炎症が起こります(*10)。ここで起こる炎症は、インスリン抵抗性(インスリンが出ていても、そのシグナルを受け取る細胞の感受性が低くなる状態)を与えます。インスリン抵抗性が起こると、作用を代償するためインスリン分泌は亢進することとなり、その結果、すい臓のβ細胞が疲弊したり死んだりし、真のインスリン不足となり2型糖尿病が発症します。

脂肪組織の変化

ところで、肥満になるならないとは関係なく、上述したように、カロリー過剰摂取によって、腸内細菌バランスがくずれます。腸内細菌の作る短鎖脂肪酸は、腸壁の粘液や抗炎症物質を増加させる役目も持っており、腸内細菌バランスのくずれによって短鎖脂肪酸が少なくなると、腸管のバリア機能が弱まりリーキーガットの原因になります(*11, *12)。こうしてリーキーガットになると、腸内細菌や腸内細菌由来のLPSが体の中に移行し炎症を起こします。肥満が炎症性疾患だと言われる所以として、このカロリー過剰摂取の結果として起こるリーキーガット経由の炎症も、合わせて考えられているようです。

腸内細菌叢の乱れからくるリーキーガット

(*1)投稿準備中

(*2)Metabolic endotoxemia initiates obesity and insulin resistance.
Diabetes, 56:1761-1772(2007)

(*3)Oral administration of Pantoea agglomerans-derived lipopolysaccharide prevents metabolic dysfunction and Alzheimer's disease-related memory loss in senescence-accelerated prone 8 (SAMP8) mice fed a high-fat diet.
PLOS ONE, https://doi.org/10.137/journal.pone.0198493 (2018)

(*4)Oral administration of Pantoea agglomerans-derived lipopolysaccharide prevents development of atherosclerosis in high-fat diet-fed apoE-deficient mice via ameliorating hyperlipidemia, pro-inflammatory mediators and oxidative resposes.
PLOS ONE, https://doi.org/10.137/journal.pone.0195008 (2018)

(*5)https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/obesity-and-overweight

(*6)Obesity – is it a genetic disorder?
Journal of Internal Medicine, 254: 401–425 (2003)

(*7)Cultured gut microbiota from twins discordant for obesity modulate adiposity and metabolic phenotypes in mice.
Science, 341:6150-(2013)

(*8)The Gut Microbiome Profile in Obesity: A Systematic Review.
International Journal of Endocrinology, https://doi.org/10.1155/2018/4095789 (2018)

(*9)糖尿病と腸内細菌
モダンメディア、62:159-165 (2016)

(*10)肥満の脂肪組織における脂肪細胞とマクロファージのパラクリン調節系
「肥満研究」12:70-72 (2006)

(*11)Short chain fatty acids stimulate epithelial mucin 2 expression through differential effects on prostaglandin E1and E2 production by intestinal myofibroblasts.
Gut, 52: 1442–1447 (2003)

(*12)Microbiota-derived short-chain fatty acids promote Th1 cell IL-10 production to maintain intestinal homeostasis.
Nature Communications, 9: 3555 (2018)

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